論文コーナー

 

 
複合不動産への取引事例比較法の適用

仙台競売不動産評価事務研究会 小関 富雄

 

  現在、競売収益物件へのDCF法の適用が考えられ、その準備が進められているとのことだが、収益物件以外の複合不動産への有力な手法として土地・建物一体としての取引事例比較法を論じてみたいと思う。

 不動産市場が好調であったバブル期の複合不動産の鑑定評価は土地が最有効使用の状況の更地価額に建物の積算価額を加えることにより求められる積算価格が中心であり、収益価格は求めても極端に低い価格となり、参考程度にとどめるといった状況であった。
 しかし、昨今は収益還元法がクローズアップされ、特に複合不動産においては土地・建物一体とした収益価格が重要視されるようになった。
 しかし、評価対象物件が快適性等を重視する戸建住宅の場合には、これに賃貸を想定することは非現実的であり、収益還元法はなじみの薄いものである。そこで土地・建物一体とした取引事例比較法の適用を提案する次第である。

 具体例を用いて紹介すれば次のとおりである。

例 (1) 取引事例価格等の内容

取引価格
25,000,000円
  (土地価格)
18,000,000円
  (建物価格)
7,000,000円
取引時点
2002年4月15日

  (2) 評価対象物件及び取引事例の価格形成要因
   
評価対象物件
取引事例
土地関係
面 積
(増減価要因)
201.31平方メートル
不整形地(-5)
228.842平方メートル
角  地(+2)
建物関係
床 面 積
残耐用年数
建 物 品 等
112.17平方メートル
7 年
やや優る(+5)
114.29平方メートル
12 年
普  通

   (3) 比準価格の査定
取引価格
時 点
修 正
地域格差
修  正
個別格差
修  正
面 積
補 正
土地価格
18,000,000円
95/100
100/100
95/102
201.31平方メートル
/228.84平方メートル
14,010,000円
取引価格
残耐用年数
補 正
品等格差
修  正
床面積
補 正
その他
補 正
建物価格
7,000,000円
7年/12年
105/100
112.17平方メートル
/114.29平方メートル
100/100
4,210,000円
計(比準価格)
18,220,000円

 当然のことながら、当該手法はその敷地の利用が現況建物を前提として継続使用することが合理的と判断される場合に適用されるものであり、その有用性は土地に対する建付減価、建物に対する減価修正が求められた複合不動産の比準価格に織り込み済であり、全体として極めて的確に市場を反映する価格が求められることにある。
 欠点をあげれば、当該手法は評価対象建物と取引事例の建物の用途が異なる場合、建物の残存耐用年数が大きく異なる場合で取引事例の土地と建物の価格の配分額が合理的に行われていない場合には土地・建物一体としての価格にぶれが生じて、求められる土地と建物の価格に信頼性に欠けるきらいがある。
 簡単に具体例により説明すれば次のようなことである。今後の検討課題である。


具体例(検証)
   土地と建物の複合不動産の取引事例で土地と建物の配分額がa、bと異なる場合

a 取引価格 
25,000,000円
  (土地価格)
18,000,000円
  (建物価格)
7,000,000円
b 取引価格
25,000,000円
  (土地価格)
15,000,000円
  (建物価格)
10,000,000円
  
  (1) 評価対象建物と取引事例の建物の残存耐用年数が同じ場合
    (残耐用年数:7年)
     a
取引価格
事情補正
時点修正
地域格差
修  正
個別格差
修  正
面 積
補 正
土地価格
18,000,000円
100/100
95/100
100/100
95/102
201.31平方メートル
/228.84平方メートル
14,010,000円
取引価格
事情補正
残耐用
年数補正
品等格差
修  正
床面積
補 正
その他
補 正
建物価格
7,000,000円
100/100
7年/7年
105/100
112.17平方メートル
/114.29平方メートル
100/100
7,210,000円
合     計         A
21,220,000円

     b
取引価格
事情補正
時点修正
地域格差
修  正
個別格差
修  正
面 積
補 正
土地価格
15,000,000円
100/100
95/100
100/100
95/102
201.31平方メートル
/228.84平方メートル
11,680,000円
取引価格
事情補正
残耐用
年数補正
品等格差
修  正
床面積
補 正
その他
補 正
建物価格
10,000,000円
100/100
7年/7年
105/100
112.17平方メートル
/114.29平方メートル
100/100
10,310,000円
合     計         B
21,990,000円

  開  差(額)(A−B)   770,000円


   (2) 評価対象建物と取引事例の建物の残存耐用年数が大きく異なる場合
    (残耐用年数:対象建物7年、取引事例建物24年)
     a
取引価格
事情補正
時点修正
地域格差
修  正
個別格差
修  正
面 積
補 正
土地価格
18,000,000円
100/100
95/100
100/100
95/102
201.31平方メートル
/228.84平方メートル
14,010,000円
取引価格
事情補正
残耐用
年数補正
品等格差
修  正
床面積
補 正
その他
補 正
建物価格
7,000,000円
100/100
7年/24年
105/100
112.17平方メートル
/114.29平方メートル
100/100
2,100,000円
合     計         C
16,110,000円

     b
取引価格
事情補正
時点修正
地域格差
修  正
個別格差
修  正
面 積
補 正
土地価格
15,000,000円
100/100
95/100
100/100
95/102
201.31平方メートル
/228.84平方メートル
11,680,000円
取引価格
事情補正
残耐用
年数補正
品等格差
修  正
床面積
補 正
その他
補 正
建物価格
10,000,000円
100/100
7年/24年
105/100
112.17平方メートル
/114.29平方メートル
100/100
3,010,000円
合     計         D
14,690,000円

  開  差(額)(C−D)  1,420,000円


 取引事例の土地と建物の配分額の査定が異なる場合で、評価対象建物と取引事例の建物の残存耐用年数が同じ場合と大きく異なる場合の試算価格の開差をみると、同時期に建てられた建物の取引事例から求められた価格の方が開差が少なく、当該手法の適用においてより有効性が認められることがわかる。

 従って、本手法は概ね同時期に建築分譲された住宅団地内の戸建住宅には
最適のものであり、進んで採用すべきものといえる。

 最低売却制度の売却率が適正に起動しているかは、まず、一般市場の価格に妥当性が認められなければならない。
 評価書の中で地域分析、個別分析は一般市場を前提としたものであり、この段階での価格に妥当性がなければ市場性修正も競売市場性修
正も意味がない。
 本稿は複合不動産に取引事例比較法を適用することにより、土地と建物の複雑な価格相関関係を解決し、落札希望者等に対してよりわかりやすい情報提供を行う手法としてモデルケースを用いて紹介した。


(最後に)

 競売評価の場合は、評価額を下げれば売却率は上昇するであろう。
しかし、それだけが目的というのであれば最低売却価格制度はいらないということに結びつく。
 一般市場における的確な市場価値の把握から始まり、合理的な市場性修正及び競売市場性等を通じて最低売却価格にたどりつかなければならない。
 最低売却価格の妥当性は落札価格との格差(買増率)である程度評価されよう。
 最低売却価格と落札価格との買増率が3倍とか4倍とかでは最低売却価格に問題があるといわれてもしかたがない。
 ただし、稀にではあるがこの買増率が最低売却率妥当性の参考とならない場合がある。それは落札者が隣接地所有者の場合や親類縁者の場合で落札者の一人が飛びぬけて高額な提示する等、特殊な事情を有する場合が考えられる。
 従って、これからの研究課題は落札者、第2順位、第3順位、それ以降の順位の落札希望者の状況を精査して最低売却価格の妥当性を検証し、最低売却価格の存在意義を高める努力をすることにある。

 本稿は適正な増価率の実現を目的とするための的確な市場価値の把握の一手法として紹介した。

 

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